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最高裁判所大法廷 昭和28年(あ)2587号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人恩藤誠一の上告趣意第一点について。

原判決の引用した第一審判決は、その判示によれば、本件犯罪の主観的要件に属する行使の目的並びにその客観的要件たる本件約束手形作成の事実を包含した犯罪事実の全体を、被告人の司法警察員に対する第一回供述調書中の行使の目的についての自白のほか、証第一号乃至第四号の各約束手形、証第五号、第六号の各ゴム角印その他の証拠を綜合して認定したものである。そして、右各約束手形には判示約束手形の内容と同一の記載並びに押印のほか収入印紙の貼用及び消印が存し、また、右角印は右押印及び消印に相当するから、これ等の手形及び角印の存在は、被告人の当該公判廷外の行使の目的についての自白を補強するに足りる証拠と解するに充分である。されば、所論違憲の主張は、その前提を欠き、採るを得ない。

同第二点について。

所論は、単なる訴訟法違反、事実誤認の主張を出でないものであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

被告人の上告趣意について。

論旨第一点乃至第三点は、事実誤認、単なる法令違反の主張であり、同第四点、第五点は、単なる訴訟法違反、事実誤認の主張であって、いずれも、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

元来、手形のような流通性を持つ有価証券の偽造は、その証券が、一般取引の信頼を害する危険性に鑑み、いやしくも、行使の目的を以て外形上一般人をして真正に成立した有価証券と誤信せしめるに足りる程度に作成されていれば、たとえ、その名義人が実在しない仮空の者であり、また、その記載事項の一部が真実に合致しないものであっても、その偽造罪の成立を妨げないものと解するを相当とする。そして本件約束手形が原判決の引用した第一審判決の認定したような外観、形式を具備している以上(但し同判決は、手形の振出日については判示していないが、証第一号乃至第四号によれば、いずれも、昭和二七年八月二七日であること明らかであり、且つ、該手形には前述のように印紙の貼用、消印がある。)原判決の説示しているようにこれを以て一般人をして真正に成立した約束手形と誤信せしめるに足りる危険のおそれあるものと認めることができる。されば、右手形上の振出人である「下田連合会」「会長 渡辺俊平」が、所論のごとく実在しない名義人であり、また、振出人の肩書住所地下田町が、所論のように手形面の静岡県田方郡に存在せず、若しくは、手形面の振出地に記載されている沼津市伊豆銀行本店又は伊豆銀行下田支店が、所論のように振出当時すでに解散になっている銀行名であるとしても、本件手形偽造罪の成立を妨げないものといわなければならない。それ故、本件については、所論の法令違反も認め難く、その他記録を調べても、刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 池田克)

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